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ショートエッセイ:中通りコミュニティ・チャーチ

何を基準に?

(2012年4月29日)

工場に永年勤めていた守衛さんが、いよいよ定年を迎えました。彼には様々な仕事がありましたが、特に誇りを持っていたのが、始業時、昼休みの開始と終了時、そして終業時にベルを鳴らす仕事でした。彼は工場の人たちが、正確な時間に仕事を始めたり終えたりできるよう、毎朝近くの時計台の時計を確認して、自分の時計をそれに合わせていました。

定年の朝、守衛室の電話のベルが鳴りました。守衛さんはおもむろに受話器を取りました。電話の主は、守衛さんにこう尋ねました。「今、何時ですか?」 守衛さんは、電話の主に、合わせたばかりの時刻を告げました。これは、ここ何年も続いている日課でした。どこの誰かは知りませんが、毎日電話をかけてきて、時刻を尋ねるのです。

さて、この日が最後の出勤日でしたから、守衛さんはもう自分は定年でいなくなるから、明日から時刻を教えることはできないということを相手に告げました。そして、長いこと口にしなかった質問をついに投げかけたのです。すなわち、「あなたはどなたですか?」

電話の主は、今までの親切に対してていねいにお礼を述べた後、守衛さんの質問に答えました。「私は近くの時計台の管理人です。街の時計台の時計が狂っていては困りますから、時間に正確だという噂のあなたに電話をして、毎朝時計を合わせていたのですよ」。

周りの人を基準にする。それがうまく機能しているときは良いのですが、いったん何かが崩れ始めると、社会全体がまとまって傾き始めます。決してずれたり傾いたりすることのない、絶対的な基準を持って生きること。それが今の混乱の時代には大切なのではないでしょうか。

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