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ショートエッセイ:中通りコミュニティ・チャーチ

ハンスの手

(2013年5月12日)

ドイツのニュルンベルクに生まれ育ったアルブレヒトとハンスは、画家になるのが夢でした。しかし、なにぶんにも貧しく、とても絵の勉強などしている余裕などありません。そこでハンスは、まず自分が1人分働いて、アルブレヒトの学費と生活費を出そうと申し出ました。そして、アルブレヒトが画家になった時、逆にアルブレヒトがハンスのために働くという約束ができたのです。

ハンスに生活を支えてもらいながら、アルブレヒトは一生懸命勉強して、やがて画家として世間に認められるようになりました。アルブレヒトは、故郷に帰るとハンスの家を訪ねて言いました。「さあ、ハンス。今度は君が絵を勉強する番だ」。

しかし、アルブレヒトを支えるために炭鉱で働いていたハンスは、激しい労働のために指の関節が硬くなり、手が細かく震えるようになっていて、もはや絵筆を繊細に扱うことができなくなっていました。

ショックを受けたアルブレヒトは、友を犠牲にして成功したことへの悲しみと罪責感を抱えながら帰宅しました。そして、数日後、償いのために何かできることはないかと再びハンスの家を訪ねたとき、部屋の中から友の声が聞こえてきました。

「神さま。アルブレヒトは私のことで傷つき、自分を責めて苦しんでいます。どうか、彼がこれ以上苦しむことがありませんように。そして、私が果たせなかった夢までも、彼がかなえてくれますように。あなたの守りと祝福が、いつもアルブレヒトと共にありますように」。

アルブレヒトは再びショックを受けます。きっと僕のことをうらやみ、恨んでさえいるだろうと思っていたハンスは、その節くれ立った震える手を合わせて、この僕のために祝福を祈ってくれている。

部屋に飛び込んだアルブレヒトは、涙を流しながら願いました。「どうか、君の祈りの手を僕に描かせてくれ。君のこの手のおかげで、僕は生かされてきた。そして、君のこの手のおかげで、僕は今ここにある」。

後に「祈りの手」と題されて発表されたその絵は、アルブレヒト・デューラーの代表作の一枚になっています。

キリストを信じる人たちの中にも、説教者、音楽家、芸術家、スポーツマンなど、表舞台で活躍する人たちがたくさんいることを感謝します。しかし、その何十倍もの人たちが、見えないところで、涙をもって祈ったり労したりしてくださっています。そういう方たちの支えがあって初めて、尊い働きが進んでいくのです。

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