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ショートエッセイ:中通りコミュニティ・チャーチ

犯人を捜さないで

(2015年9月6日)

1894年(明治27年)4月28日、この日、山形県米沢市の上杉神社でお祭りが行なわれていました。そこに二人の女性が現れました。一人は、エムホスというアメリカ人の宣教師でした。もう一人は通訳の女性です。「皆さん、上杉神社のお祭りにようこそおいでくださいました。皆さんが神社にお参りなさるのは結構なことです。しかし、私は、人間としてもっと大切なことをお話ししようと思います」。通訳を介してエムホスさんが、イエス・キリストの福音を語り始めました。

すると突然、「ヤソ、帰れ!」という罵声と共に、石が飛んできて、エムホスさんのすぐそばに落ちました。「こら、やめろ! 逮捕するぞ!」と、警官が投石を制止しようとし、あたりは騒然となりました。エムホスさんは、そんな騒ぎをよそに、さらに話し始めました。

しかし、またも石が飛んできて、それがエムホスさんの顔面に当たってしまいます。思わず覆ったエムホスさんの手の下から、鮮血が流れ出ています。警官たちは犯人を取り押さえようとしましたが、あたりは群衆であふれかえっていて、誰が石を投げたのか見当もつきません。

エムホスさんはすぐに病院に運ばれました。しかし、瞳に深い傷を負ってしまい、ついに片目を失明してしまったのです。この事件は、町中に波紋を引き起こしました。「石を投げるなんて野蛮な行為は許せない」「この町の恥さらしだ」「早く犯人を捜して、厳罰に処すべし」。多くの人々が、逃げた犯人に対して憤慨しました。

しかし、当のエムホスさんは、こう言いました。「私は一眼を失っても、千人の目の不自由な方の心を開くことができたら、それで本望です。石を投げた人も、いたずら心でやったことでしょうし、今はとても後悔しているに違いありません。どうぞ、もう犯人を捜すのはやめてください」。新聞が取り上げたこのニュースは、人々の心を強く打ちました。そして、今もこのエピソードは町の人々に語り継がれ、山形県の公立学校の道徳で使う、副読本にも掲載されています。

多くの人は、イエス・キリストの愛の説明ではなく、愛の実体を見たいと思っています。百年以上前に、この東北で愛を実践なさった信仰の先輩がいらっしゃったことに、あらためて励まされ、また姿勢を正されました。

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