スクールソーシャルワーカーだより

ノミの自信喪失

先日、児童精神科医療の草分けである、田中哲先生(都立小児総合医療センター)の講演を伺いました。改めて思わされたのは、子どもが体だけでなく、精神的にも社会的にも自立した大人に成長していくためには、「あるがままの自分を受け入れ、肯定する力」が重要なのだなあということです。自信と言ってもいいでしょう。今回は、子どもの自信を育てるポイントについてお話しします。

 

コップの中のノミ

最近では、ノミもなかなか見なくなりました。この小さな虫は大変な跳躍力を持っていて、自分の体長の150倍もジャンプすることができます(身長160センチの人なら、240メートルの大ジャンプに相当)。ですから、コップの中に入れても、簡単に外に飛び出すことができます。

 

そこで、ノミの入ったコップに紙を載せて蓋をしてみます。当然、何度ジャンプしても外に飛び出ることができません。数分後、逃げるのは不可能だと悟ったノミは、飛ぶのをやめてしまいます。その後で蓋の紙を取り除いても、自分には無理だと思っているノミは再び飛ぶことをせず、コップの中で一生を終えるそうです。

 

人間も同じ

これらの例は人間にも当てはまります。失敗を繰り返すうち、「自分には無理だ」といったん思い込んでしまうと、状況が変わったり自分自身が成長したりして実行可能になったとしても、なかなかチャレンジしようとしないものだということです。

 

失敗のない人生はない

しかし、全く失敗しない人生、一度も競争に負けることがない人生はあり得ません。どんなに周りの大人が「転ばぬ先の杖」をついてやっても、子どもは必ずどこかで挫折を経験します。自信を育てる上で大事なことは、失敗しないことでも負けを経験しないことでもありません。失敗や負けを「自分がダメな証拠」として捉えるのではなく、自分が成長したり、本当の成功を手にしたりするための良い勉強をしたというふうに、肯定的に受け止めることです。失敗は、それ自体は問題ではありません。捉え方次第で宝物になります。

 

失敗した私だからこそ

ある女性が同窓会に出て、今の仕事を尋ねられたので、結婚カウンセラーをしていると答えると、相手が思わず「え、あなたが?」とつぶやきました。実は、この方は離婚を経験しておられたからです。「自分が結婚生活に失敗しておいて、何を偉そうに人様にアドバイスができるのか」という思いから出たつぶやきだったことは明らかです。

 

しかし、そんな態度にひるむことなく、この方はにっこり笑って言いました。「ええ。夫婦の関係がうまくいかなくなって、いろいろつらい思いをしたりさせたりした経験を持つ私だからこそ、若い夫婦やこれから結婚しようとしているカップルに伝えられることがあると思うの」。

 

別のノミの励まし

では、どうしたら、子どもたちは失敗を前向きに捉え、自信を持つことができるでしょうか。それは、「もっと自信を持て」と説教することではありません。別に説教してもいいのですが、逆に「自分は自信がないからダメなんだ」というふうに、かえって自信をなくす子どももいることでしょう。

 

自信を喪失して飛ばなくなったノミがいるコップの中に、新しいノミを入れてやるとどうなるでしょう。もちろん、新しいノミはすぐに飛び出てしまいます。それだけでなく、飛ばなくなっていたノミも再びジャンプを試み、外に飛び出ていきました。

 

まず私たち周りの大人が、子どもや自分の失敗や負けを肯定的に解釈し、その解釈を子どもたちに伝えたり、自らヘコまずに(それどころか楽しそうに)チャレンジし続ける姿を見せたりすること。それが子どもたちに失敗に負けない自信、それどころか失敗を成長の糧にする力を与えます。

 

知り合いのお子さんは、小学生のサッカーチームでゴールキーパーをつとめています。そして、大切な試合で、PK戦の末に彼のチームが敗れてしまいました。彼が、真っ正面に飛んできて取れたはずのボールを取り損ねたせいです。試合後、落ち込む彼にコーチが言いました。「すごい横っ飛びだったよ。もし、同じ方向にボールが行っていたら、絶対に取れていたはずだ。地面に落ちたときは痛かったと思うけど、よく勇気を出して飛んだね。シュートする人のほとんどは隅っこを狙うわけだから、思いきって横にジャンプできるキーパーは、チームの宝だ」。それ以来、彼はますます熱心に練習をするようになったそうです。

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