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福島県大玉村 スクールソーシャルワーカーだより

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人生の問い


2019年2月号
どんなに親や教師が気を配ってあげても、それでも子どもたちはいろいろな問題に直面します。そもそも、いつまでも大人が子どものために「転ばぬ先の杖」をついてやるわけにはいきません。大切なことは、どんな問題がやってきても、子どもたちが自分でそれを乗り越えていく力、すなわち生きる力を身につけさせることではないでしょうか。今回はそのためのヒントになりそうなお話です。

ビクトール・フランクル

ロゴセラピーという精神療法を開発した精神科医、ビクトール・フランクル(1905-1997)の「それでも人生にイエスと言う」(春秋社)という本で、こんな話が紹介されています。

罪を犯して無期懲役の判決を受けた人がいました。そして、脱出不可能と言われる監獄島に送られ、そこで死ぬまで閉じ込められることになりました。この囚人が監獄島に向かう船に乗り込む時、誰かにこう尋ねられたらどうでしょう。「今のあなたに、生きる意味が何かありますか?」 フランクルは言います。「きっと囚人は首を横に振っただろう。しかし、どのようなことが彼の人生を待ち受けているか、この時点では誰にも分からなかった」と。

実際、この後この囚人はこんな経験をします。彼が乗せられた船が沖合に出ると、火災が起きてしまいます。江戸時代の日本でも、牢獄付近で火事が起こった際、数日の期限を設けて囚人が解き放ちにされましたが、彼もまた手錠を外されて自由の身となりました。そして、この囚人は救助活動に加わり、10名の命を救いました。その後、その働きが政府に認められ、彼は特赦が与えられて釈放されることになります。

フランクルは、このエピソードを紹介してこう言いました。「私たちはどんな状況に置かれたとしても、それに対する自分の反応を決定する自由があり、それは自分以外の何者によっても奪い去られることはない」。

フランクル自身の体験

フランクルは、それを自分の人生で例証しています。「夜と霧」という著書の中で詳しく述べられていますが、フランクルはユダヤ人であり、ナチス・ドイツによる迫害によって、妻も子も両親も殺されたばかりか、彼自身も収容所に送られました。持ち物は全部取り上げられ、衣服も剥ぎ取られ、結婚指輪でさえも取り上げられました。

しかし、そのとき彼は、心の中でこうつぶやいたそうです。
「あなたたちは私から家族を奪い、衣服や指輪を奪い、体の自由を奪うことができるだろう。しかし、『私の身に降りかかってくることに対して、私がどう反応するか』、それを決める自由は、誰も私から取り除くことはできない」。
その後、フランクルは収容所に閉じ込められ、人間としての誇り、ユダヤ民族としての誇りを踏みにじられるような扱いを徹底的に受け続けます。それでも彼は誇りを失わず、生きる希望を保ち続けようとしました。あえてそうしようと決断し、選択し、それをし続けたのです。

収容所での過酷な生活の中で、彼よりもはるかに体力がある人たちが、次々と衰弱死していきます。しかし、いかにもひ弱で、真っ先に死んでしまうだろうと思われた人たちの中に、連合軍によって解放されるまで生き延びた人たちがいました。彼らは、フランクルと同様、最後まで生きる意味を手放さなかった人たちです。その一人は、フランクルにこう言いました。「自分には、どうしても書かなければならない本がある。それを書いて世に送り出すまでは、どうしても死ねない」。

私たちは問われている存在だ

フランクルはこう語っています(増田によるパラフレーズ)。
私たちが「自分には生きる意味があるのか」と他者に問うのは、初めから間違っている。私たちは生きる意味を問うてはならない。逆に、人生の方が「あなたは自分の人生にどんな意味を持たせるのか」と、私たちに問いかけているのだ。生きるということは、絶えずその問い、「人生の問い」に答え続けることにほかならない。それこそ、自分の人生に責任を負うことである。こう考えると、恐れるものはもう何もない。どのような未来も怖くはない。
要するに、どんな状況の中にあっても、自分は幸せな存在であり、生きる価値があるということ、そしてその状況の中でどう生きるのかということを、私たちは自分で決めることができるし、そうしなければならないということですね。そして、それを決めた人たちの前に、未来は開けていきます。長い人生の中で、様々な葛藤を経験するであろう子どもたちにも、ぜひ教えてあげたい真理です。

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