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福島県大玉村 スクールソーシャルワーカーだより

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カインコンプレックス


2019年9月号
スクールソーシャルワーカーの研修の一環として、とあるケース検討会に参加してきました。そこで小学校で暴言や暴力を繰り返す児童についての課題について話し合っているとき、「カインコンプレックス」という言葉を思い出しました。

カインコンプレックスとは

心理学者ユングが提唱した概念で、「きょうだいの間で、親の愛情の独占を巡って抱く競争心や嫉妬心が、競争相手であるきょうだいとの人間関係に否定的な影響を与えたり、それが親や他の家族、あるいは家族以外の人との人間関係にまで波及したりすること」を指します。名前の由来は旧約聖書に書かれているカインとアベルの物語です。
最初の人間アダムとその妻エバ(イブ)の長男がカイン、次男がアベルです。ある日、二人が天の神にささげものをしたとき、アベルのささげものは受け入れられたのにカインのささげものは拒否されました。神はカインに、拒否したのはささげる方法が間違っていたためだから、正しい方法でやり直せばいいだけだと言い、嫉妬による怒りをコントロールせよと命じました。ところが、嫉妬のあまりカインはアベルを殺してしまいました。
カインとアベル
カインコンプレックスを扱う小説やドラマはたくさんあります。たとえば最近、福島県で再放送された山ア賢人さん主演の「グッド・ドクター」(フジテレビ系。初放送2018年7-9月)で、病弱な弟に嫉妬する兄の葛藤をテーマとする回がありました。両親、特に母親の関心や時間が弟にばかり向くことに兄は密かに不満を抱えていました。しかし、ずっとその思いを封印し、手のかからない子として過ごしてきたのです。ところが、中学生になったあるとき、ついにその思いが爆発し、まるで弟の死を願うようなひどい言葉を弟と母親に向かって投げかけてしまいます。

みんな注目と関わりを求めている

病気や心身の障がいを抱えていようとなかろうと、子どもは周りの大人(特に親や教師)の注目や具体的な関わりを求めています。その欲求が十分に満たされないと、それまでいい子だった子が突然反旗を翻し、親やきょうだいや教師に対して反抗的な態度を取ったり、さらにエスカレートすれば、不登校、怠学、非行、うつ病や拒食・過食等の精神疾患などを起こしたりします。それらは、きょうだいや周りの大人に対する復讐の場合もあるし、自分が「手がかかる子」になることによって大人の関心を引き寄せようとしている場合もあります。
もちろん、子どもの不登校や非行や精神疾患の原因が、すべてカインコンプレックスだというわけではありません。
研修で取り上げられたケースでも(詳しい内容は申し上げられませんが)、当該児童のきょうだいがおそらくADHDで非常に手がかかります。そのため、当該児童は「親の愛情を独占したい」という思いを封印し、ずっといい子で育ってきたのでしょう。そして、ついに我慢の限界を迎え、家庭の外である学校で、いい子とは逆の生き方をするようになったのだと考えられます。

時間は愛情

重要なポイントは、皆さんのお子さんや担当するお子さんが、大人の目にいわゆる「いい子」であっても「困った子」であっても、どの子も大人の関心と具体的な関わりを求めているということです。それを満たしてやりましょう。たとえ一人っ子であっても、親が家事や仕事や趣味ではなく自分自身に目を向けてくれているという体験が必要です。

時間は愛情の象徴の一つです。自分のためにわざわざ時間を使ってくれていると感じたとき、人はその人から大切にされている、愛されていると実感します。しかも、その「時間」は楽しいひととき、うれしいひとときでなければなりません。個人的に1時間使ってもらったとしても、それが叱責や説教の時間だったら、子どもは自分が個人的に大切にされたとはなかなかは思えないということです。

とはいえ、大人は何かと忙しく、子どもにずっとかかりっきりになることはできません。研修では児童精神科医の星野仁彦先生が、月に1回でいいから「○○ちゃんデー」を設けようと教えてくださいました。その日は、親がその子とだけたっぷりと時間を取って遊んだりおしゃべりしたり出かけたりする(その間、他のきょうだいはもう片方の親や祖父母に任せる)というものです。学校であれば、「○○ちゃんタイム」です。週に1度は数分でも、担任がすべての子に個人的に「指導」ではない声かけをしたり、おしゃべりしたりする時間を持ちます。それだけでも、子どもは自分が大切にされていると感じます。

いろいろ忙しい中でも、そういう時間をがんばって作り出しましょう。そうすることで、結局「指導」のために使われる時間が大幅にセーブされることになりますから。

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福島県大玉村
スクールソーシャルワーカー
増田泰司(ますだたいじ)

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FAX.0243-48-2909