2021年4月号
お子さんのご入園、ご入学、ご進級おめでとうございます。私は、大玉村教育委員会所属のスクールソーシャルワーカーで、増田泰司(ますだたいじ)と申します。福祉の立場から、皆さまの子育てや教育をお手伝いしています。
そして、8月を除く月1回、こうして「スクールソーシャルワーカーだより」を発行して、子育てや人間関係や仕事などに役立つお話をさせていただきます。質問・感想・相談は大歓迎です(
こちらに情報を安全に送信できる送信フォームが設置されています)。さて、今年度最初のお話は……?
原因論と目的論
子どもがいたずらをしたり、暴力を振るったり、ルールや約束を破ったりしたとき、私たちはどんなふうにその子に問いかけるでしょうか? 「なぜそんなことをしたの?」 それでもいいのですが、ほんの少しだけ尋ね方を変えてみるとどうなるでしょうか。
最近何かと注目されているアルフレッド・アドラーという心理学者(1870-1937年)は、子育てするときは
「原因論」ではなく「目的論」で関わろうと勧めています。原因論とは、相手の言動の原因・理由を尋ねるような関わり方です。一方、目的論とは、何を目的として(どうなりたくて、どういう状況を起こしたくて、何を目指して)それを行なったのかを尋ねるような関わり方です。
たとえば、お兄ちゃんが弟を突然ぶっ飛ばしたとします。そのとき……
- 「どうして叩いたの?」と理由を尋ねれば、「だってこいつが僕のオモチャを勝手に取ったんだもん」と理由を答えるでしょう。
- 「弟にどうしてもらいたかったの?」と目的を尋ねれば、「オモチャを返して欲しかったんだ」と目的を答えるでしょう。
アドラー心理学が原因論を避けるよう勧めるのは、ともすると相手を責めるような対応になりがちだからです。たとえば「お兄ちゃんなんだからそれくらい我慢しなさいよ!」とか、「だからって叩くことないでしょう!」とか、「言い訳するな!」とか。
一方、
目的論が勧められているのは、問題の解決に向かいやすいからです。上記の例でいうと、お兄ちゃんの返答を聞いた親は「そっかぁ、オモチャを返して欲しかったんだね」と一旦受け止めます。それから、「じゃあ、叩かないでオモチャを返してもらうにはどうしたらいいかなぁ?」とさらに質問したり、「今度は、叩いたり蹴っ飛ばしたりする代わりに、『返して』って言ってみようか」と指導したりして、暴力以外の新しい行動に導くことができます。
なお、その場でお兄ちゃんに「返して」と弟に言わせて、弟にも「『返して』って言われたら『いいよ』って言って返そうね」と指導してやらせます。そうすると、兄弟そろってオモチャの取り合いになった場合の対処法を身につけることができますね。
このように、目的論的な対応は問題の解決につながりやすいのです。それだけでなく……
気持ちを受け入れられた感じがする
以前、幼児を育てているママさんたちのサークルで目的論的な関わり方を紹介したことがあります。その日のうちにあるお母さんが実践して、結果を報告してくださいました。お子さんが泣くので「どうして泣いてるの?」ではなくて、「どうしたいの?」と
優しく尋ねたのです。すると「ママと遊びたい」。そして、すぐに泣き止んだそうです。
すぐ泣き止んだ理由について、このお母さんは「気持ちを受け入れてもらった気がしたからだろう」と分析しておられます。まさにその通りです。
原因を目的に翻訳
とっさに原因を尋ねてしまったとしてもご心配なく。「どうして叩いたの?」「だって、こいつがオモチャを勝手に取ったから」「そっかぁ、オモチャを返して欲しかったんだね」というふうに、原因の答えを目的の答えに翻訳してあげれば問題ありません。
原因ではなく目的を聞く関わり方は、幼稚園児だけでなく、小学生や中学生、果ては大人にも通用します。ぜひ使ってみてください。