2021年5月号
ゴールデンウィークや夏休みなどの長期休み明けというのは、子どもも大人もいつものペースに戻るのに苦労する人が多いようです。勉強、部活、仕事、家事、早起き、ダイエット……どれもこれもなんとなくやる気が出ないというか……。「どうしたら自分や子どもからやる気を引き出せますか」という質問を時々いただきますが、私の方が是非教えていただきたいです。
でも、最近ある方法を使うようになって、それほどやる気が出なくてもすんなり「しなければならない行動」に手をつけることができるようになりました。そして、一旦始めるとだんだんと調子に乗ってきて続けることができます。今回は、私が知人から教わったそのやり方を紹介します。
メル・ロビンスの5秒ルール
それは、メル・ロビンスという人が提唱した「
5秒ルール」と呼ばれるものです。メルさんはニューヨーク州で弁護士をしていましたが、夫がボストンで起業することになり、仕事を辞めて一緒に引っ越しました。ところが、メルさんの転職がまったく決まらず、夫の会社もなかなか経営が軌道に乗りません。元々十代の頃からパニック障がいで抗不安薬が手放せなかった彼女でしたが、さらにアルコールで経済的不安やストレスをごまかすようになってしまいました。
そして、朝まったく起きられなくなりました。メルさんも頭では分かっているのです。寝ていても何の解決にもならないことくらい。そして、本当は朝早く起きて、家族の食事を作り、子どもを学校に送り出し、仕事を探しに行き、エクササイズをする方がずっと健康で生産的だなんてことくらい。しかし、目覚ましが鳴ってもすぐに止めてしまいます。そんな生活が数ヶ月にわたって続きました。
ある夜、メルさんはテレビでNASAのロケット発射シーンを観て、「私もあのロケットのようになれたらいいのに」と思いました。そして、やってみたのです。翌朝、目覚ましのベルが鳴るとすぐに、「5、4、3、2、1」とカウントダウンして、「ゼロ!」でパッとベッドを飛び出しました。
そう、起き上がれたのです! 何ヶ月も起きることができなかったのに、いとも簡単に。こうして、
「やらなければならないことは、あれこれ考えないで、5秒カウントダウンしてやってしまう」という「5秒ルール」が誕生しました。メルさんは早起きだけでなく、しなければならない他の様々な行動に応用して、実り多い人生を歩むことができるようになりました。
作業興奮
メルさんによると、私たちの脳には「今のやり方を変えたくない」という頑固な性質があります。それは変化しないことが安全だと脳が信じているからです。ですから、やる気が出たら始めようなんて思っていたら、いつまでたってもやる気なんか出てきません。脳がブレーキをかける前に、とにかく考えずに5秒で始めてしまう。そうすると脳が活性化してやる気が後から湧き上がってきます。
ドイツの心理学者エミール・クレペリン博士も、
「興味が湧かない作業でも、一旦手をつけてやり続けているうちに、自然とやる気や集中力が出てくる」ことに注目して、この作用を「作業興奮」と名付けました。5秒ルールは、作業興奮のスイッチを入れるための簡単な方法です。
やめることにも応用できる
早起きするとか宿題をするとか掃除をするとかのように、「〜する」ことばかりでなく、5秒ルールは「〜しない」ことにも応用できます。ただし「しない行動」をすることはできませんね。そこで、「それをする代わりにやること」(
代替え行動)を考えて、その代替え行動を5秒後に始めるのです。
たとえば、不安が頭を持ち上げてきたときには、「そんなこと考えるな!」と自分に言い聞かせる代わりに、5秒カウントダウンしてから「素敵なビーチでのんびり日光浴している場面」をイメージするとか。メルさん自身もそれを実践すると、どうしようもない不安感から次第に解放されるようになり、ティーンの頃から20年以上飲んでいた抗不安薬を飲まなくてもいられるようになったそうです。
他にも、ダイエットのために間食を控えなければならない人は、「間食したくなったら5つ数えて、ペン習字の練習を始める」などと応用できますね。
代替え行動
ところで、私たちは子どもに対してよく「〜しちゃだめ」という表現をしがちです。自分自身に対してそうすることもあるでしょう。しかし、それと共に「代わりにどうしたらいいか」を考えて伝えたり、本人に考えさせたりすることが大切です。