2021年7月号
間もなく夏休みが始まりますね。子どもの頃は楽しみで仕方がありませんでした。今年は昨年度に引き続き新型コロナの問題が収束しておらず、子どもたちの楽しみが制限されてしまうのは残念です。早く、思い切り遊び回れる夏休みが帰ってきて欲しいですね。さて、今回は夏休みを前にして、ある大切な事実を確認してみたいと思います。
会社にとって有用な人材の特徴
ある会社での話です。新しい採用ルールに則って採用した新人が、社内の各部署に配属されました。すると間もなく現場の幹部たちが人事部にねじ込んできました。今年度採用した新人が、全員会社員としてまったく使い物にならないというのです。
曰く、気が利かない、感謝しない、謝罪しない、社内はもちろん社外の人にもあいさつできない、報連相しない、自ら学ぼうとしない、段取りが悪い、他の人と協力して仕事を進められない、仕事が雑、監視してないとすぐ手を抜く、義務を果たさず権利ばかり主張する……と、散々な評価です。そんなわけで、新しい採用ルールは「不採用」となりました。
それから人事部では、会社が欲している人材はどういう特徴を持っている人なのか、改めて様々な角度から分析を行ないました。その結果、会社にとって有益な人たちには、性別・年齢・出身校などにかかわらずある共通点が見つかったのでした。それは、「子どもの頃から家事の一部を分担してきた」ということです。
なぜ小さいときから家事の一部を任されて育った子どもが社会人として望ましい力を持てるようになるのでしょう。それはそういう子どもは次のような力を養うことができるからです。
- 自分が分担されたことをやらなかったり、いい加減な終わらせ方をしたりしたのではみんなが困るので、やらなければならないことを最後まできっちりやり通す責任感や忍耐力や誠実さが身につきます。
- 今自分が食べたり飲んだり寝たりと快適な生活ができているのは、他の誰かの努力のおかげだということを学んで、感謝の心が育ちます。
- 自分も喜んでもらったり感謝されたりすることで健全な自尊心が育ち、様々なことに積極的にチャレンジできるようになります。
- 自分の利益だけでなく他の人に喜んでもらうことも考えて行動できるようになります。
- 分担された家事を手早く終えることができたら、その分自分が好きなことをする時間が増えますから、あらかじめ段取りして効率よく作業するクセを身につけます。
- 何らかの理由で分担された仕事ができないとき、他の人に代理を依頼するなどカバーする方法を学びます。
逆に言うと、家庭の中でただサービスを受けるだけの存在として育てられれば、こういった力を十分養われないまま大人になってしまう。すなわち、あの現場の部課長がこき下ろしたような社会人に育ってしまう恐れがあるわけです。
家事分担させるのは大変ですが
子どもに家事を分担させるのは、親にとっては結構大変です。というのも、最初から子どもはうまくやれないからです。その子に理解できる言葉でていねいに説明し、やって見せ、一緒にやりながら、やり方を身につけさせなければなりません。失敗することも多いので、そのカバーもしてやらなければなりませんし、下手に失敗を叱るとやる気を失ってしまいますから、できたところを認めながら根気よく育てていかなければなりません。
それには時間も手間も気力も必要ですから、ついつい「自分がやった方が早い」と思って子どもに分担させません。しかし、家事分担は親が楽をするための手段ではありません。ご飯を食べさせるのと同じような、子育てには不可欠の要素だと思ってください。
以前、不登校の中学生のご家庭に関わったときのことです。いろいろお話を伺う中で、ご両親にはある提案だけをしました。それは、「1つでいいので、毎日やらなければならない家事をお子さんに分担してもらってください。そして、1ヶ月ごとにチェック表を作って、家事を実行できたらそこにシールを貼らせてください。シールが貼れた日は一緒に喜びましょう」というものでした。本人とご両親は納得して実践してくださり、半年後には学校に戻ってくることができるようになりました。自信がなくて学校に行けなくなっていたのが、家事をしっかり分担する事で得られる小さな成功体験や、家族に喜ばれ感謝される体験によって、自信を取り戻したからでしょう。
子育てにとって家事分担は必要不可欠の大事な要素です。これまでお子さんに家事分担させてこなかったご家庭では、夏休みは始めるいい機会です。