2021年12月号
ブリーフセラピーという精神療法があります。ブリーフとは短いという意味で、短期間で効率的に「何とかなりそうだ」と来談者に思ってもらうことを目指します。その考え方や技法には、私たちの子育てや人間関係にも役立つものがあります。今回はその一部を紹介します。
問題解決の2つの方法
ブリーフセラピーは、「原因指向」ではなく「解決指向」だと言われます。何か問題が起こったとき、原因や犯人を探して追及するようなやり方ではなく、「何をどうしたら解決の方向に向かうか」ということをもっぱら考えるのが解決指向です。
問題解決に役立つ方法には、大きく2種類があります。それは、
- 「うまくいっていることを、もっと行なうこと」(Do more)
- 「うまくいっていないことを、別のやり方でやってみること」(Do different)
です。
Do more
問題に巻き込まれると、「何もかもが大変だ」という思いに囚われがちです。しかし、よくよく探してみると、
すばらしいとまでは言えなくても比較的マシと言える状況が見つかるものです。これを「
例外」と呼びます。その例外を積極的に探すのです。そして、それをもう少しだけ意識して行ないます。
たとえばあるお母さんは、小学1年生の弟が3年生の兄にちょっかいを出し、嫌がられて反撃され、最終的に大喧嘩になることに悩んでおられました。それを家庭訪問に来た兄の担任に相談すると、先生は次のように質問なさいました。
「週にどれくらいの頻度でケンカになるのですか?」
続けて次のようなやり取りがなされました。
「週に4日くらいでしょうか」。
「ということは、週に3日は喧嘩せずに過ごせるわけですね」。
担任は、ひどい部分ではなくマシな部分に注目させたのです。さらに尋ねました。
「では、喧嘩しないときには、どんなことがありましたか?」
お母さんは考えた末に、次のように答えました。
「そうですね。土日と水曜日ですから、私のパートが早上がりで、あの子たちが帰宅する頃には私が家にいることが多いです」。
そして、今のところ仕事のペースを変えるわけにはいかないけれど、家で一緒にいられる日に、もっと意識して子どもたちと一緒に、しかも楽しく過ごすようにしたらよいのではないかと気づかれました。それを実践してみると、以前よりも喧嘩の頻度が少なくなったということです。
Do different
例外がなかなか特定できない場合には、この問題が続くのに役立っている行動のパターンはないかということを考えます。
悪循環になっているパターンを見つけるわけです。そして、その悪循環パターンから外れる、新しい行動を試してみます。
ある小学校のクラスでは、男子の一人がよく離席したり机に突っ伏したりして、真面目に授業に取り組まないこと、そしてその影響で他の子たちも影響を受けて全体がざわついていることに、担任が悩んでいました。学年主任に相談すると、
「あなたが良かれと思ってやっているのに、かえってその子の行動がエスカレートしたり、回りの子たちが落ち着かなくなったりしていることはない?」
と尋ねられました。
すると、次のようなことに気づきました。その子を注意しようとすると、ますますその子は走り回って逃げようとするか抵抗して大騒ぎをして、かえって授業妨害になってしまう。また、その間他のちゃんと座っている子たちが放ったらかしになり、飽きてざわついてしまう。
それに気づいた担任は、よっぽど危険なことや迷惑なことでない限り、多少その子が授業に集中できていなくても放っておき、ちょっとでも前向きに授業に取り組んだときにすかさず「やれてるね」「がんばったね」と認めるようにしました。
また、普通に授業に取り組んでいる他の子どもたちについても、そんなの当たり前だと見過ごさず、同じようにしっかり評価して認めるようにしました。
すると、だんだんとあの子の離席が減りました。クラス全体の雰囲気も落ち着き、みんないっそう積極的に授業に取り組むようになったそうです。
できていないところではなくできているところに注目し、それを意識して行なう。そして、
悪循環になっているパターンを見つけ、それとは違う行動をしてみる。ご家庭でもぜひ実践してみましょう。