(2025年8月31日)
エルサレムで捕えられたパウロに対する、ユダヤ人による暗殺計画が持ち上がります。しかし、神はパウロの甥やローマの千人隊長を用いてパウロの命を守りました。
礼拝メッセージ音声
参考資料
15節の「最高法院」(サンヘドリン)は、ローマ帝国からユダヤの自治を任されていた、国会と最高裁判所を併せたような組織。
17節の「百人隊長」(ゲントゥリオ)は、古代ローマ軍において60〜80人からなる部隊の指揮官。「千人隊長」(トリブヌス・ミリトゥム)はその上官で、約600人からなるコホートと呼ばれる大隊の指揮官。ここに出てくる千人隊長クラウディウス・リシア(26節)は、エルサレムの治安維持を任されていました。
24節の「フェリクス」は、紀元52年〜59年頃までユダヤ属州総督を務めました。元々は解放奴隷で、ローマの第4代皇帝クラウディウスの母アントニアに仕えていました。歴史家ヨセフスやタキトゥスは、彼が腐敗と暴力に満ちた人物だったと評しています。妻はユダヤ人のドルシラで、ヘロデ・アグリッパ1世(使徒12章に登場)の娘です。
イントロダクション
今回の箇所は、私たちがさまざまな状況の中でも安心して暮らすことができるように導いてくれます。
1.パウロ殺害計画の回避
パウロ殺害計画
過激なユダヤ人たちの誓い
(12節)夜が明けると、ユダヤ人たちは徒党を組み、パウロを殺すまでは食べたり飲んだりしない、と呪いをかけて誓った。
第三回伝道旅行を終えてエルサレムに立ち寄ったパウロは、神殿に異邦人を連れ込んだという誤解を受けて、ユダヤ人たちに殺されそうになりました。
エルサレムの治安維持を担当する千人隊長、クラウディウス・リシア(26節)は、軍隊を出してパウロを救出します。そして、その後自分自身で取り調べたりユダヤの最高法院の裁判にゆだねたりしますが、パウロがローマの法律に違反したという証拠は見つかりませんでした。
当初は当惑していた千人隊長リシアですが、ユダヤ人たちが騒いでいるのは、法律違反ではなく宗教上の問題だということに気がつきます(29節)。このままだと、パウロは無罪放免ということになるでしょう。
そこで、パウロのことを憎むユダヤ人たちは、必ずパウロを亡き者にし、それが成就するまで飲み食いしないという誓いを立てました。これは、パウロが最高法院で裁判を受けた翌日のことです。
陰謀を企てた人数
(13節)この陰謀を企てた者たちは、四十人以上いた。
結構な人数です。
祭司長たちや長老たちへの報告
(14節)彼らは祭司長たちや長老たちのところに行って、次のように言った。「私たちは、パウロを殺すまでは何も口にしない、と呪いをかけて堅く誓いました。
パウロ殺害の誓いを立てた人々は、祭司長たちや長老たち、すなわち最高法院(サンヘドリン)のメンバーである政治的・宗教的指導者たちのところに行きました。これは、最高法院の協力を得てパウロを暗殺するためです。
最高法院には、前回の裁判の記事で見たように、パウロに同情的な議員たちもたくさんいました。ここで協力を仰いだのは、暗殺者たちと同様にパウロを憎んでいる議員たちです。
殺害計画の内容
(15節)そこで、今あなたがたは、パウロのことをもっと詳しく調べるふりをして、彼をあなたがたのところに連れて来るように、最高法院と組んで千人隊長に願い出てください。私たちのほうでは、彼がこの近くに来る前に殺す手はずを整えています。」
暗殺者たちが考えた計画はこうです。
- まず最高法院が、千人隊長に「再びパウロを取り調べたい」という願いを出す。
- それが許可されて、パウロが最高法院に送られてくる。
- そうしたら、その途中で暗殺者たちがパウロを襲って殺害する。
パウロの甥の密告
甥からパウロへの報告
(16節)ところが、パウロの姉妹の息子がこの待ち伏せのことを耳にしたので、兵営に来て中に入り、そのことをパウロに知らせた。
パウロの姉妹の息子、すなわち甥が、パウロの暗殺計画について耳にしました。陰謀を企てているところをたまたま立ち聞きしたのか、あるいは、最高法院の指導者たちの中に知り合いがいて、密かに知らせてくれたのかしたのでしょう。
さっそく甥はパウロの元を尋ねて、事の次第を報告しました。
甥が抑留中のパウロに面会できたのは、パウロが「ローマ市民権」を持っていたためです。当時、ローマ市民権を持つ人にはさまざまな特権が与えられていました。その一つとして、まだ刑が確定していないローマ市民の囚人には、家族や友人が面会したり、食事や必要物資を差し入れたりすることが許されていたのです。
- 後にパウロがカイサリアやローマで投獄されていた場合も、友人が出入りしてパウロを助けました(使徒24:23、28:30)。
百人隊長への依頼
(17節)そこで、パウロは百人隊長の一人を呼んで、「この青年を千人隊長のところに連れて行ってください。何か知らせたいことがあるそうです」と言った。
パウロはローマ軍の百人隊長に甥を紹介して、千人隊長リシアと話ができるよう取り計らってほしいと依頼しました。
百人隊長の報告
(18節)百人隊長は彼を千人隊長のもとに連れて行き、「囚人パウロが私を呼んで、この青年をあなたのところに連れて行くように頼みました。何かあなたに話したいことがあるそうです」と言った。
パウロの願いを聞き入れた百人隊長は、パウロの甥を千人隊長の下に連れて行きました。そして、この青年の話を聞くよう願いました。 これもまた、パウロがローマ市民だったことの賜物です。
千人隊長の問いかけ
(19節)すると、千人隊長は青年の手を取り、だれもいないところに連れて行って、「私に知らせたいこととは何だ」と尋ねた。
百人隊長は、この青年がパウロの元から使わされたということを報告しました。そこで千人隊長は、パウロがユダヤ人たちに殺されそうになった経緯が何か分かるかもしれないと思ったのでしょう、他に誰もいないところで甥の話を聞くことにしました。
甥の回答
(20-21節)青年は言った。「ユダヤ人たちは、パウロについてもっと詳しく調べるふりをして、明日パウロを最高法院に連れて来るよう、あなたにお願いすることを申し合わせました。どうか、彼らの言うことを信じないでください。彼らのうちの四十人以上の者が、パウロを殺すまでは食べたり飲んだりしないと呪いをかけて誓い、待ち伏せをしています。今、彼らは手はずを整えて、あなたの承諾を待っているのです。」
パウロの甥は、千年隊長にパウロ暗殺計画について報告しました。
千人隊長の応答
(22節)そこで千人隊長は、「このことを私に知らせたことは、だれにも言うな」と命じて、その青年を帰した。
話を聞いた千人隊長は、パウロの甥に「誰にも言うな」と命じました。これは、甥が家族などに「千人隊長に対応をお願いしてきた」と話した場合、それが暗殺者たちや最高法院のメンバーの耳に入ってしまうかもしれないからです。
千人隊長は、ローマ市民であるパウロが暗殺されないようすぐに対策を講じるつもりでした。その対策とは、パウロの身柄をカイサリアのローマ総督府に送ることです。
仮に千人隊長リシアが自分に与えられている権限でパウロを無罪放免にしても、ユダヤ教の総本山であるエルサレムにいてはパウロの安全を保証できません。
一方、カイサリアには3千人ほどのローマ軍が常駐していましたから、カイサリアで総督による正式な裁判を受けて無罪が証明されればより安全です。そのように千人隊長リシアは考えました。
しかし、それが事前に暗殺計画の首謀者にバレてしまうと、護送の途中でパウロが襲撃されてしまうかもしれません。そこで、千人隊長は念には念を入れて、「誰にも言うな」とパウロの甥に命じたのです。
パウロ護送の命令
兵士たちの準備
(23節)それから千人隊長は二人の百人隊長を呼び、「今夜九時、カイサリアに向けて出発できるように、歩兵二百人、騎兵七十人、槍兵二百人を用意せよ」と命じた。
千人隊長は、部下である百人隊長を2人呼び寄せました。そして、兵士たちを武装させて、夜の9時にカイサリアに向けて出発できるよう準備させました。これはパウロを暗殺者たちの襲撃から守るための護衛です。
当時、祭りなど以外の平時にエルサレムに駐屯していたローマ軍は、600人程度でした。そのうちの470人、すなわち78%をパウロの護衛に回したわけですから、かなりの戦力を用意したということになります。
40人程度の暗殺者たちが襲ってきても、十分パウロを守ることができますが、千人隊長はさらに仲間が増える可能性も考慮に入れたのでしょう。ローマ市民であるパウロを何としてでも守るという、千人隊長リシアの並々ならぬ決意が伝わってくる数字です。
総督府へのパウロ護送の準備
(24節)また、パウロを乗せて無事に総督フェリクスのもとに送り届けるように、馬の用意もさせた。
さらに千人隊長は、パウロを徒歩で移動させるのではなく、馬に乗れるよう取り計らいました。馬に乗っていれば、万が一襲撃を受けても逃げやすくなります。
そして、この後の箇所に書かれていますが、千人隊長リシアは総督であるフェリクスに当てて事の次第を説明する手紙を記しました。その内容は簡潔にして正確で、千人隊長リシアが真面目で任務に忠実な人柄だということが分かります。
こうしてパウロは総督フェリクスがいるカイサリアへと送られることになりました。そして、フェリクスの元で裁判を受けることになります。

アントニウス・フェリクスのメダリオン
(画像引用:Wikipedia)
では、ここから私たちは何を学ぶことができるでしょうか。
2.神の守りを信じよう
神の約束は必ずなると信じよう
パウロに対する神の約束
今回の出来事が起こる前の夜、すなわち最高法院での裁判があった日の夜、イエスさまがパウロの前に立って、次のような命令と励ましをなさいました。
(11節)その夜、主がパウロのそばに立って、「勇気を出しなさい。あなたは、エルサレムでわたしのことを証ししたように、ローマでも証しをしなければならない」と言われた。
いつも申し上げていますが、神さまの命令には約束が伴っています。「ローマでも証しをせよ」という命令には、「あなたは必ずローマに行くことができる」という約束が隠れています。
今回、パウロの身が守られてカエサリアに送られたのは、その約束が実現していく一つのステップです。
あなたへの約束も必ず実現する
私がこの教会の開拓を始めるために福島県に引っ越したたばかりの頃、なかなか仕事が見つからずに不安になりました。そんな私に、神さまはいくつもの聖書の言葉を通して励ましを与えてくださいました。たとえば……
(マタイ6:31-33)ですから、何を食べようか、何を飲もうか、何を着ようかと言って、心配しなくてよいのです。これらのものはすべて、異邦人が切に求めているものです。あなたがたにこれらのものすべてが必要であることは、あなたがたの天の父が知っておられます。まず神の国と神の義を求めなさい。そうすれば、これらのものはすべて、それに加えて与えられます。
その約束通り、神さまは私と家族の生活を支えてくださいました。
あなたに対して、イエスさまはどんな約束を与えてくださっているでしょうか。その約束は必ず実現します。そのことを信じて心配や不安を捨て去りましょう。
神の摂理を信じよう
「神の摂理」とは、神さまがその知恵と力によって、この世界のさまざまな事柄をうまく導いて、最終的にご自身のみこころを実現なさる働きのことを指します。今回の記事の中にも、神さまの摂理のわざを見ることができます。
ローマ市民権
まず、パウロがローマ市民権を持っていたことによって、パウロがローマに行く前に殺されるという危険を取り除かれました。パウロがローマ市民でなかったら、ここまでローマ軍による保護を受けることができず、早々に命を奪われていたことでしょう。
このローマ市民権について、パウロは「自分は生まれながらのローマ市民だ」と言いました(22:28)。父か祖父、あるいは先祖がローマ帝国に対して功績を挙げたため、ユダヤ人でありながらローマ市民権を与えられたということです。
すなわち、パウロ自身が市民権を手に入れたわけではありません。しかしながら、パウロは市民権の恩恵を十分に受けています。
甥の活躍
パウロが知らないうちに、甥がパウロの危険を知り、パウロが殺されないよう奔走してくれました。
このように、私たちが意識していなくても、神さまの摂理のわざは着々と進んでいます。
千人隊長リシアの人柄
ユダヤ属州総督フェリクスの元には6名ほどの千人隊長がいたと考えられます。その中でエルサレム駐屯軍の司令官になったのはクラウディウス・リシアでした。
このリシアが非常に誠実な人物だったということも、今回パウロの安全が守られた理由の一つです。彼は、ローマ市民であるパウロの安全を保証するため、自分にできる限りのことを行なってくれました。
もちろん、リシアをエルサレム駐屯軍司令官に任命したのはパウロではありません。神さまがさまざまな状況をうまく動かして、リシアを配置なさったのです。
私たちが考えられること、対策を講じられることは限られています。しかし、自分の手の届かないことに関しては、神さまがうまくやってくださいます。それを信じて安心しましょう。

(画像引用:Wikipedia)
神のみこころを実践しよう
物事には、神さまがご自分の責任として行なってくださることと、私たちの責任として行なわなければならないことがあります。この二つを区別しましょう。
たとえば救い。聖書には次のように書かれています。
(ヨハネ3:16)神は、実に、そのひとり子をお与えになったほどに世を愛された。それは御子を信じる者が、一人として滅びることなく、永遠のいのちを持つためである。
救いに関して私たちがすべきことは、御子イエスさまを信じること、すなわち「この自分の罪を赦すためにイエス・キリストが十字架にかかり、死んで葬られ、3日目に復活なさった」とという福音を信じることです。
一方、 神さまは私たちを愛し、私たちを永遠の滅びから救い出して永遠のいのちを与えるため、御子イエスさまをこの世に遣わしてくださいました。これは神さまがなさったことです。
神さまは、福音を信じた人の罪を必ず赦し、救い、永遠のいのちを与えてくださいます。福音を信じるという私たちに与えられている責任を果たしたなら、これについて私たちが心配する必要はありません。
パウロがすべきこと
パウロは、自分の手の届かない事柄については、必要以上に心配せずにイエスさまにお任せしました。そして、自分にできることを精一杯行ないました。すなわち、その場所その場所で福音を宣べ伝えたり、目の前の人に愛を実践したりすることです。
あなたがすべきことは?
あなたが今、神さまから行なうよう期待されているのはどんな行動ですか? それを忠実に実践しましょう。そうすれば、それ以外のことは神さまがすべてうまく取り計らってくださいます。
といっても、私たちが願ったとおりにことが進むという意味ではありません。この後パウロは、総督フェリクスのおかげで、さらに2年間カイサリアで牢獄生活を続けることになります。それでも、パウロは最終的にローマに行ってそこで伝道するのです。
私たちの人生も、自分の思い通りには進まないかもしれません。しかし、それでも自分に与えられている責任を果たすとき、神さまが最もふさわしい着地点へと私たちを送り届けてくださいます。
祈りましょう。「神さま、あなたが責任を持って行なってくださることについては、私は必要以上に心配せずあなたにお任せします。それらを心配する代わりに、私が今考えなければならないこと、しなければならないことが何か教えてください。そして、それを行なう知恵や力を与えてください」。